電池製造に向けた多層電極コーティング技術の進展

高度な電極設計と、それが電池電極の性能および効率に与える影響
8inks 共同創業者兼 CEO Dr. Paul Baade 氏へのインタビュー

原文(英語・2024年):Multi-layer battery electrode coating advances for battery manufacturing
著者: Pam Poulin(Market Development Manager, Thermo Fisher Scientific)
インタビュアー: Dr. Julian Renpenning(Scientific Marketer and Consultant, Battery-Tech Network | Creative Marketing)

8inks 共同創業者兼 CEO Dr. Paul Baade 氏へのインタビュー

8inksは、Paul Baade氏と3名の共同創業者によって2022年に設立され、革新的な多層カーテンコーティングプロセスによって、リチウムイオン電池製造の在り方を再定義している企業です。この技術により、高度な電極アーキテクチャと高速生産が可能となり、性能向上とコスト削減の両立を目指しています。
Paul Baade氏は、ETH Zurichで電動レーシングカー向けの電池パック設計に携わったことをきっかけに電池分野への関心を深めました。その後、ローレンス・バークレー国立研究所で電池材料研究に従事し、ETH Zurichで博士号を取得する中で、8inksの基盤となる革新的な技術を開発しました。
同社の電極製造アプローチは、現代の電池製造が抱える主要な課題に対応するものであり、業界の効率性、性能、そして経済性を大きく変革する可能性を秘めています。本インタビューでは、Dr. Paul Baade氏が、8inks独自の多層カーテンコーティング技術と、それが高性能かつスケーラブルな電池ソリューションにもたらす意味について語っています 。

▼もくじ

8inksはどのようにして始まったのでしょうか。アイデアのきっかけと、会社の使命を突き動かしているものについて教えてください

8inksは、電池製造業界における重大なボトルネック、すなわち高品質な電極の供給という課題に対応するために設立されました。私たちの着想は、革新的な電極設計が既存の製造プロセスと適合しないためにスケールアップできずにいる状況を目の当たりにしたことから生まれました。そこから、電池の製造方法そのものを変革する機会があると考えるようになり、スケーラビリティ、エネルギー密度、持続可能性の向上に焦点を当てるようになりました。

私たちの主な目的は、次世代電池の量産化を可能にすることです。特許取得済みの多層カーテンコーティング技術を活用することで、性能向上とリサイクル性、さらには製造コストの低減を同時に実現しています。この戦略により、現在の電池製造が直面する課題に対応し、より効率的で持続可能なエネルギー貯蔵への道を切り開いて います。

多層カーテンコーティング技術とはどのようなもので、従来の電極コーティングや電池製造方法とどのように異なるのでしょうか

多層カーテンコーティングは、複数の層を同時に電極上へ堆積できるプロセスであり、生産速度と設計自由度を大幅に向上させます。スロットダイコーティングなどの従来技術では、一度に 1層しか形成できず、速度にも制限がありますが、当社の技術では最大10倍の速度でのコーティングが可能です。また、非常に薄い層から厚い層まで、幅広い膜厚を実現できます。

これによりコスト削減だけでなく、用途に応じた電池性能の最適化が可能になります。複数層を高速かつ同時に形成できる点は、従来の製造技術と比べて、電極生産効率と設計自由度の両面で大きな優位性をもたらします。

この電極コーティングプロセスの主な利点について、特にエネルギー密度や出力密度の観点から教えてください

当社は多層カーテンコーティング技術を複数の方法で活用し、電池性能を向上させています。例えば、最新の電池においてエネルギー密度を高める一つの方法は、より厚い電極層を用いることです。当社の技術では、厚みを持ちながらも精密に制御された電極層の製造が可能であり、積層構造全体における輸送特性の課題を克服できます。内部層の構造と配置を最適化することで、特定の用途に必要な負荷条件に対し、より高い出力を提供できる電池を実現できます。

さらに将来的には、全固体電池とリチウム金属の組み合わせにより、400 Wh/kg以上のエネルギー密度が実現可能になると考えています。当社の技術は、固体―固体界面やリチウム金属界面といった難しい領域を精密に制御することを可能にし、必要な特性をもつ電極物質を、必要な場所に正確に配置できる点が強みです。

この技術は、どのような産業や用途で特に大きな効果を発揮するとお考えですか

当社の技術は、電気自動車(EV)や系統用エネルギー貯蔵といった、高性能かつスケーラブルな電池ソリューションを必要とする分野に広く貢献できると考えています。
特に自動車産業は電池需要の最大のけん 引役であり、当社の技術によって、エネルギー密度・出力密度が高く、かつコスト効率と持続可能性を兼ね備えた電池の製造が可能になります。これらの分野において、性能・効率・環境責任への要求を満たす電池を実現できる点が大きな価値です。

貴社の技術は、特に生産量の拡大という観点から、電池製造における競争環境をどのように変えているのでしょうか

当社の多層カーテンコーティング技術は、高速かつ多層同時コーティングによって、生産量を大幅に増加させます。自由落下するカーテン流を利用し、安定したコーティングを行うことで、従来手法に伴う時間とコストを削減できます。これにより、メーカーは高性能電池への需要増加に、より効率的に対応できるようになります。

多層カーテンコーティング技術

この技術の開発およびスケールアップにおいて、最も大きな課題は何でしたか

最大の課題は、研究室レベルの技術を、精度と性能を維持したまま産業規模へと拡張することでした。これは多くの電池メーカーが直面する課題でもあります。
当社は、電池バリューチェーンの中で最も重要な工程である 電極コーティングに注力することで、迅速な進展を実現しています。現在の目標は、2025年第2四半期までに顧客向け実証パイロットラインを稼働させることです。

現在市場にある他の電池製造技術と比べて、8inksの技術の特長は何でしょうか

8inksの技術は、高速生産と多層形成能力を両立できる点で独自性があります。紙産業や写真フィルム産業など、極めて大規模な生産で実績のある技術を電池材料へ応用しています。既存のコーティングラインで使用可能な材料やスラリーの自由度が高く、導入障壁が低い点も大きな特長です。

ビジネスの観点から、8inksが潜在的な顧客やパートナーにとって魅力的な理由は何でしょうか

独自の強みの一つは、新しいソリューションを 非常に短期間で開発できる点です。また、明確なスケールアップの道筋を提示できるため、既存の生産ラインへの統合が容易です。
私たちは、セル性能と生産要件のトレードオフを理解した上で開発を進めており、量産段階においても両立が不可欠だと考えています。

セル性能と生産要件

初期のパイロットプロジェクトから、フルスケールのカスタマイズされた電池生産システムに至るまで、企業はどのような形で8inksと協業することができるのか、ご説明いただけますでしょうか

各社それぞれのニーズや開発段階に応じて、さまざまな形で8inksと協業することが可能です。私たちは、革新的なコーティング技術を用いて特定の電池設計を共同で開発するパイロットプロジェクトを提供しており、これによりパートナー企業は、自社の用途において当社アプローチの有効性を検証・評価することができます。
しかし、私たちの支援はそれにとどまりません。パイロットプロジェクトに続いて、開発したソリューションを量産規模で実装するための生産システムも提供しています。これは、当社のノウハウおよび知的財産(IP)を含む、いわばハードウエアのアップグレードに相当するものです。この選択肢は、当社技術を自社設備に完全に統合したい企業にとって最適であり、立ち上げ期間を大幅に短縮することが可能になります。
このように、初期のコンセプト検証から量産ラインへの統合に至るまで、幅広い開発段階において企業を支援できる体制を整えています。

実際に技術を使用した顧客からは、どのような評価を得ていますか

顧客からの反応は非常に好意的です。特に、電極内部に薄層を組み込める設計自由度の高さが評価されています。これにより、解決可能な課題の幅が広がり、さまざまな用途への対応が可能になっています。

今後、技術開発および市場展開の観点から、8inksはどのような次のステップを考えていますか

8inksの次のステップとしては、最初の顧客ニーズに対応するために、パイロット生産設備のスケールアップを進めていくことを計画しています。このデモセンターは、当社技術のスケーラビリティおよび工業化の可能性を実証する場となります。
また、ここでは性能面および生産面での利点を定量的に評価することが可能です。私たちの目標は、幅広い用途において、当社技術が持つ性能と柔軟性の高さを実証することにあります。

まとめ

サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、8inks社をはじめとする電池領域のスタートアップインタビュー(英語)や、電池研究・製造に関連する科学分析のアプリケーションノート(ダウンロードフォーム)を公開しております。ぜひ電池関連分析の情報収集にご活用ください。

電池研究・製造に関連する科学分析のアプリケーションノート

ダウンロードはこちら

研究用にのみ使用できます。診断用には使用いただけません。

記事へのご意見・ご感想お待ちしています

  • サーモフィッシャーサイエンティフィックジャパングループ各社は取得した個人情報を弊社の個人情報保護方針に従い利用し、安全かつ適切に管理します。取得した個人情報は、グループ各社が実施するセミナーに関するご連絡、および製品/サービス情報等のご案内のために利用させていただき、その他の目的では利用しません。詳細は個人情報の取扱いについてをご確認ください。
  • 送信の際には、このページに記載のすべての注意事項に同意いただいたものとみなされます。