DNAとRNAの並列解析が広げる後期非小細胞肺がん治療の選択肢

がん専門医は、長年にわたって、個々の患者の腫瘍DNA配列に基づいて分子標的治療を行ってきました。しかし、最近のRNA解析に注目した研究データも、より効率的で効果的ながん治療を行うために、非常に重要な情報を提供してくれています。ヨーロッパのチームの最新の研究において、このRNAとDNAを同時にシーケンシングすることで、臨床医ががんの診断をより速く・より低価格で・より正確に行えることが確認されています。

大規模なレトロスペクティブ研究を主導したAlbrecht Stenzinger医師

これまでで最大となるレトロスペクティブ研究において、2014年7月から2018年4月の間に後期非小細胞肺がん(NSCLC)と診断された3,000人の患者の腫瘍DNAとRNAの両方が分析されました。「次世代シーケンサ(NGS)を用いたアプローチは、従来の単一遺伝子検査よりも必要な組織量が少なく、より早く結果が得られ、費用対効果が高い」とハイデルベルク大学病院病理学研究所(IPH)分子病理学センターの責任者であるAlbrecht Stenzinger医師は語ります。Stenzinger医師が先導した研究は、International Journal of Cancerに発表されました。

Ion AmpliSeqをベースとしたDNAとRNAの迅速な並列解析

Stenzinger氏は、ドイツの複数の研究機関で構成される分野横断的な臨床研究チームと協力し、DNAとRNAの配列を同時にターゲットNGSで取得した結果が、いくつかの点で現在の臨床診断に関する国際的なガイドラインより優れていることを示しました。
また、彼らが使用した特別にデザインされたアッセイは、より幅広い治療オプションの組合せを見極めるために役立ちました。

研究チームは、Ion AmpliSeq™テクノロジーをベースとしたサンプル調製を行い、Ion Torrent™システムをシーケンシングプラットフォームとして使用することで、固形腫瘍分析にかかるターンアラウンドタイムを平均で6日に短縮しました(現在、国際ガイドラインでは10日を推奨しています)。腫瘍量が不十分な場合に生じるドロップアウト率もまた、平均の検体使用量がDNA 10 ng、RNA 20 ngにおいて、6.5%から3.4%に減少しました。

「私たちが示しているのは、『one-stop-shop-approach』です。これによって、少量の生検サンプルからDNAとRNAを並行して抽出し、それらをシーケンスすることで、DNAレベルだけでなく、融合遺伝子や転写産物レベルで変異があるかどうかを確認できます。例として、ALK転座の腫瘍であるだけでなく、読み枠にずれが生じずに活発に転写されるEML4融合遺伝子の腫瘍であると述べることができるのです」とStenzinger氏は語ります。

現在のガイドラインでは、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)によるRNA解析を推奨していますが、Stenzinger氏の分析では、RNAシーケンスが、NSCLCの治療において、予後や 治療効果の予測に重要と知られている融合遺伝子を特定するために優れた方法であることがわかりました。遺伝子融合は、ある染色体のDNAの一部が別の染色体に移動したときに生じます。ただし、RNAに転写される融合遺伝子のみががんを引き起こす可能性を持っています。このチームが発見した結果は、医師がより積極的な治療や経過観察の対象となる患者さんを、より効果的に特定するために役立つ可能性があると、Stenzinger氏は話します。

「このワークフローの優れた点は、順番にではなく、並列に解析を行える点です。これを使用すれば、存在している遺伝子異常や、実際に重要な遺伝的微小環境についてすぐに知ることができます。 我々は、TP53変異はALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんを形成することを知っています。たとえば、ALK融合遺伝子のバリアント3は生存率が非常に低いことを意味します。したがって、この並列シーケンスのアプローチを使用すると、現在報告されているものをはるかに超える予後情報を提供できます。」とStenzinger氏は語ります。

「現在、分子標的治療は、非小細胞肺がん患者さんの全生存期間を最長にしていますが、この新規治療法の恩恵を受けられる患者さんの決定は、腫瘍生検における特定のバイオマーカー検出に依存しています」とStenzingerは説明します。「標的となるDNAとRNAシーケンスを組み合わせることで、臨床医とその患者さんに治療オプションを拡大するために必要な情報を提供していきます。」と続けます。

そして、今後の展開

この研究は現在進行形であり、チームは既存のコホートに毎年1,000サンプルを追加する予定です。 Stenzinger氏は、現在のアプローチは、Tumor Mutation Burden (TMB)の臨床研究を含む他のアプリケーションに合わせて調整および適合できると今後を見据えています。

参考情報
・Combined targeted DNA and RNA sequencing of advanced NSCLC in routine molecular diagnostics: Analysis of the first 3,000 Heidelberg cases
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ijc.32133

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