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Accelerating ScienceLearning at the Bench / 分子生物学実験関連 / そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第1回 CRISPR/Cas9システムの原理~

そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第1回 CRISPR/Cas9システムの原理~

作成者 LatB Staff 10.08.2020

▼もくじ

  • はじめに
  • CRISPR/Cas9システムとは
  • 実際にCRISPR/Cas9ゲノム編集を始める方におすすめ!
  • [無料公開中]CRISPRゲノム編集リソースガイド

はじめに

ある研究者(後輩研究者)はこれからゲノム編集を用いて遺伝子解析を行いたいと考えております。CRISPR/Cas9の実験を始めたいが何から手をつけていいのか全くわかりません。CRISPRとは?Cas9ヌクレアーゼとは?疑問ばかりなのでゲノム編集やCRISPR/Cas9システムを先輩研究者に教えてもらうことになりました。

CRISPR/Cas9システムとは

詳しい解説;CRISPR/Cas9システム

Fig. 1 SpCas9のゲノム編集の原理

従来のCas9は化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)に由来するクラス2のTypeⅡの酵素で、SpCas9とも呼ばれます。この酵素は他の因子を必要とせず単独で活性を持つためゲノム編集の実験系に最初に使われたた酵素です。PAM配列はCas9が標的2本鎖配列を認識するために必要なゲノム上の配列でSpCas9の場合はNGG(NはA、C、G、Tどの塩基でも可能)です。そのためSpCas9を使用するゲノム編集の場合には、ゲノム上にNGG配列が必須です。
SpCas9のガイドRNAは100 ntの長さの一本鎖RNA(single guide RNA)が使用されてきました(Fig. 1)。ガイドRNA の5’側の19塩基または20塩基は目的の遺伝子に対する相補配列(Target complementary crRNA; crRNA)になり、3’側の80塩基はトランス活性化型配列(Trans-activating crRNA;tracrRNA)と呼ばれるSpCas9が結合する配列になります。
crRNA配列はPAM配列がゲノム上に多く存在していれば何通りもデザインできる可能性がありますが、crRNA配列によって切断活性とオフターゲット切断の効率が大きく異なってきます。オフターゲットとは、目的遺伝子とは異なるゲノム配列上で切断と変異導入が起きる現象です(オフターゲット効果の詳しい解説はこちら)。crRNA配列の特異性が低いとオフターゲットによる変異導入の発生率が高くなります。そのため、Invitrogen™ GeneArt™ CRISPR Search and Design Toolのような優れたデザイナーサイトを用いて特異性の高いガイドRNAを作成することをお勧めします。
TracrRNA配列はSpCas9が結合して活性を持つために必須な共通配列でCas9との複合体ではヘアピン構造を形成します。Fig. 1のように目的の遺伝子にCas9ヌクレアーゼがリクルートされると、Cas9によりゲノムが切断されます。切断部位はPAM配列の上流3塩基目と4塩基目で切断されますので変異はこの周辺に挿入されることになります。

SpCas9以外にも多くのクラス2のヌクレアーゼが知られています。それぞれPAM配列や分子量など特徴がさまざまです(Table 1)。たとえばIn vivoでCRISPR/Cas9システムをデリバリーする場合、アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用することが多いですが、SpCas9では分子量が大きくパッケージングが難しいため、より分子量が小さなSaCas9が使用されます。他にCas12(Cpf1とも呼ばれる)は、PAM配列がTTNのためSpCas9でゲノム編集できない遺伝子でもTTが存在すればゲノム編集が可能です。Cas12(Cpf1)ではガイドRNA自体が非常に短い(42塩基)ためgRNAの作成が容易というメリットもあります。このようにSpCas9以外にも多くのCas9が発見されており、ゲノム上の多くの部位でゲノム編集できるよう柔軟性が高くなってきています。

詳しい解説;オフターゲット効果を抑える方法
オフターゲット効果とは目的の部位以外に変異が挿入されてしまうことです。オフターゲットで変異が入った場合、目的の変異由来の表現型かオフターゲット由来の表現型か判断することが難しくなります。オフターゲット効果を抑える手段としては2つあり、1つ目が特性の高いcrRNAをデザインする事です。2つ目はCas9タンパク質を用いた実験系を使用することが挙げられます(こちらは次回以降に記載予定)。crRNAの特異性を高めるためのデザインとして、seed配列が特異的かどうかまたは20塩基のcrRNA配列に他のゲノム配列と異なるように少なくとも3つ以上の異なる塩基が含まれるかというアルゴリズムがあります。Seed配列はPAM配列の上流12塩基の配列のことで、CRISPRdirectデザイナーツールで確認できます。20 nt配列中に3つ以上の異なる配列を持つcrRNAのアルゴリズムは、Invitrogen™ CRISPRデザインツールで用いられているアルゴリズムです。このようにデザインされたcrRNAを用いてゲノム編集を行った場合はオフターゲット効果が減少されると考えられますが、オフターゲットがゼロになるわけではありません。そのためゲノム編集株を樹立した際にはオフターゲットによる変異を確認する必要があります。一般的にはゲノム上でcrRNAの配列と似ているゲノム部位(PAM配列は必須です)を数か所から数十か所行いオフターゲットの変異が導入されていない事を確認しましょう。

詳しい解説;変異が挿入される仕組み

Fig. 2 CRISPR/Cas9システムで変異が入る仕組み

ガイドRNAとCas9ヌクレアーゼが細胞内に挿入されると、Cas9ヌクレアーゼはガイドRNAと結合して複合体を形成します。この複合体はCas9ヌクレアーゼの末端の核移行シグナルにより核に移行し、核内ではPAM配列(NGG)に結合します。Cas9ヌクレアーゼはゲノムDNAを巻き戻す活性があるため、結合したPAM配列および上流の2本鎖ゲノムDNAが1本鎖に乖離し、gRNAが相補鎖のゲノムと結合します。その後Cas9ヌクレアーゼは目的遺伝子のPAM配列の上流3塩基目と4塩基目でゲノムを切断します(ダブルストランドブレーク、DSB、と呼ばれます)。切断が起こっても、通常は細胞内の修復経路(非相同末端結合;non homologous end joint)によりもとの配列に戻されます。ところが細胞内にガイドRNAとCas9の複合体が残存していると再切断が起きます。こうして切断・修復が繰り返される間に低い確率で修復エラーが起き変異が入ります。この変異はランダム変異のため、どのような変異が入るのか、欠失なのか挿入なのか、あるいはどれくらいの塩基数で変異が起こるのかをコントロールすることはできません。そのため樹立したゲノム編集変異体の変異部位のシーケンスを行い変異の確認を行います。シーケンスの結果から遺伝子の両アレルに変異が入ったのか(ホモの変異)または片アレルに変異が挿入されたのか(ヘテロ変異)も判断できます。

詳しい解説;ノックインシステムについて
ランダム変異の実験と異なり、挿入したい配列(たとえばSNPや蛍光タンパク質の遺伝子など)が決まっている場合はノックインのシステムでゲノム編集します。挿入する配列を細胞内で共存させる必要があるため、挿入する配列を含んだドナーベクターや1本鎖オリゴ(single strand oligo)の準備が必要です。ドナーベクターや1本鎖オリゴが細胞内に共存すると、ダブルストランドブレークが起きた後に細胞内の相同組み換え(Homology directed repair;HDR)によりドナー配列または1本鎖オリゴの配列がゲノムに取り込まれます。ドナーベクターや1本鎖オリゴには挿入したい配列の他に2つのアーム配列を含む必要があります。
アーム配列とは挿入するゲノム部位の周辺のゲノム配列と同じ配列で、アームの長さはドナーベクターの場合500 bpから1 kbp程度、1本鎖オリゴの場合は40塩基以上の長さが使用されます。1本鎖オリゴの場合は、SNPなどの数塩基置換の編集に使用され、長い配列の導入はできません。長い配列をノックインしたい場合はその配列を組み込んだドナーベクターを使用します。

Fig. 3 ドナーベクターおよび1本鎖オリゴを用いたノックインシステムの概要

そういうことだったのか ! ゲノム編集実験(CRISPR/Cas9) ~第2回 ガイドRNAのデザイン~はこちら

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